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イベント報告

2012/09/19

第1回JTF翻訳支援ツール説明会

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2012年度第1回JTF翻訳支援ツール説明会
2012年9月19日(水)14:00~16:30
【開催場所】 GMOスピード翻訳株式会社
【テーマ】 「スタイルチェックツール(JTF日本語スタイルチェッカー、Wordマクロ「蛍光と対策」、TransQA)の紹介」
【講 師】
西野 竜太郎氏 (IT翻訳者、ソフトウェア開発者、JTFスタイルガイド委員)
新田 順也氏 (特許翻訳者、ソフトウェア開発者、エヌ・アイ・ティー株式会社代表取締役)
小林 卓氏 (IT翻訳者、ソフトウェア開発者、翻訳工房ベルテック代表)
【報告者】 土屋 麻衣子 (JTFスタイルガイド委員、アヴァシス株式会社)
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日本語の文章では表記のゆらぎが少ない方が好ましいとされています。また、過去の文書データを翻訳メモリーとして蓄積して再利用また検索する際にも、表記のゆらぎは少ない方がよいとされています。そこで表記を統一するために使われるのが「JTF日本語標準スタイルガイド」などの日本語表記ガイドラインです。しかし、たくさんの表記ルールを人間が記憶するのは限界があり、現実的な方法とは言えません。表記ガイドラインを正しく運用するには、機械的にエラーを検出してくれるチェックツールが欠かせません。
 今回のツール説明会では、JTF標準スタイルガイド検討委員会が推奨する3種類のスタイルチェックツールの使い方をそれぞれの開発者が基礎編として解説しました。いずれのツールも、日本語の文章がJTFスタイルガイドの表記ルールに従って書かれているかどうかをチェックする機能を備えています。
 
  ツール名 開発者 特長
第1部 JTF日本語スタイルチェッカー 西野 竜太郎氏 ブラウザー上で手軽に使える、処理が速い
第2部 Wordマクロ「蛍光と対策」 新田 順也氏 Word文書専用、カスタマイズ可能、コメント書き出し機能付き
第3部 TransQA 小林 卓氏 バイリンガル文書に対応、カスタマイズが可能、用語チェックが可能
 
解説
第1部(西野氏)
「JTF日本語スタイルチェッカー」
JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)」に記されたスタイルに準拠しているかどうかをチェックするツール。チェック対象の日本語テキストをフィールド(窓枠)に入れて「実行」ボタンをクリックするだけのシンプルな造りとなっており、現在、約1300のチェック項目が登録されている。
 
何が得意か?
  1. ブラウザー上で簡単に使える。
JavaScriptをダウンロードして、それを各ユーザーのPC上で実行している。
本ツールのWebサイト (http://www.jtf.jp/jp/style_guide/jtfstylechecker.html) にアクセスしてツールを実行すると、JTFのサーバーに貼り付けたデータ(機密情報)が残ってしまうのではないか?という質問を受けたが、サーバーにはアップロードしないため、チェックしたデータがJTFのサーバーに残ることはない。
2.    処理が高速である。
フィールド(窓枠)の大きさによる文字数の制限はなく、PCのメモリーが許す限りチェックができる。
 
どういった場面でこのツールを使うのか?
  1. (JTF)スタイルガイドとは何か、スタイルガイドでどういう点をチェックするのか、このツールを使って実演で示すことができる。このツールを開発した背景でもある。
  2. 翻訳会社の方が翻訳者の翻訳文を簡単にチェックしたい場合などに手軽に使える。
 
オプション機能は?
オプションは、全角文字と半角文字間に半角スペースを入れるかどうか?という1つのみ。
JTFでは半角スペースを入れないとしているが、実際の案件では入れるケースもある。JTFスタイルに準拠したチェックのみだとヒット件数が多く過検出となるため、ヒット件数を抑制するためにオプションを設けた。
 
何ができないか?
・正規表現で機械的に検出できない箇所のチェックはできない(意味はチェックしていない)。
・たとえば、見出しは、「本文が敬体であっても、見出しには常体や体言止めを使う」というルールがある。このツールは、どれが「見出し」なのかという判断をしないためそのチェックができない。
・検出できないものはチェックしていないため、JTFのスタイルは完全に網羅できていない。
・ブラウザー上の動作に限定されるため、このツールをWordにインポートできない。
 
第2部(新田氏)
Wordマクロ「蛍光と対策」
新田氏は、2011年と2012年の2年連続でMicrosoft MVPをWord部門で受賞したマクロの達人。Wordマクロを使ったスタイルチェックの自動化が仕事にもたらす効果、またスタイルガイドの作り方のヒントなどをお持ち帰りいただきたいとのこと。「Wordマクロ」とはWordを自動で動かす機能であり、Word上で実行可能である。今回の「蛍光と対策」マクロは、Word文書から独立している(アドイン形式)。納品物に添付される心配はない。
本ツールは、前述の「JTF日本語スタイルチェッカー」と似ているが、相違点として、Wordでチェックができ(Word以外の文書はチェックできない)、オプションを詳細に設定できる。
今回、次の3点について説明する。
 
1. 新しい仕事の方法について
「蛍光と対策」は、「JTF日本語標準スタイルガイド」と「ユーザー定義(自分で定義ファイルを作る)」に則ったチェックができる。
 
主な機能:
・検出した項目に蛍光ペンでのマーキング
・マーキングへのジャンプ
・コメントの挿入、書き出し、および削除
「蛍光ペンの色」や「検索の種類」を選べる(「ユーザー定義」を用いる場合)
 
ポイント:
・ノウハウの蓄積が簡単である。
・ノウハウが共有でき、品質向上につなげられる。自分の仕事も改善でき、会社組織も成長する。
・やりたくてもできなかったボリュームの大きい作業など、このツールを活用することで完遂することができる。
・ユーザー定義ファイルを作ることは「ノウハウの整理、見える化、共有する」こと。発想を広げるツールにもなり、利用方法は工夫次第である。
 
2. JTFスタイルガイドに準拠したチェック
チェック項目
・「半角・全角」、「カタカナ」、「算用数字と漢数字」など合計1400項目(項目の変更・追加はできない)
 
3. 自分のスタイルガイドに準拠したチェック(ユーザー定義ファイル)
チェック項目:
ユーザー定義ファイルを独自に作成して、以下のようなさまざまなチェックができる。
・一文が150文字以上の場合にチェック(可読性の考慮)
・NGワードのチェック(注意の喚起、美しい日本語の選択)
・同音異義語のチェック(誤変換の防止)
・目に見えないタブ、シングル/ダブルスペースのチェック
・文頭の小文字のチェック
 
ワイルドカード(Wordの正規表現)の使用をおすすめする。
 詳細は、新田氏のブログ (http://ameblo.jp/gidgeerock/entry-10843418591.html) を参照してください。
 
※ 複数ファイルを同時にチェックすることはできない。開いているWordファイルのみチェックできる。
ユーザー定義ファイル作りのヒントは以下を参照してください。
http://www.wordvbalab.com/keiko_dic.html
 
第3部(小林氏)
「TransQA
文章校正ツールと、IT翻訳で使われることが多いQAチェックツールのチェック内容はすみ分けされ、相互補完されていることが多い。この2種類のツールを使い分ける面倒をなくしたいと考え「TransQA」を開発した。「TransQA」は、QAチェックツールと文章校正ツール両面の特性を兼ね備えており、スタイルの定義から用語集まで細かい定義が可能。前述の2つのツールに比べると、使い方は少々難しくなるが、使いこなせば定義に応じてどんなスタイルガイドにも対応できる強力なツールになる。
 
「TransQA」の強み:
・複数のツールに対応
・チェック項目を自由に組み合わせ可能
・目的に応じてカスタマイズ可能
・自由に使える。入手は無料(今のところ)
・バイリンガルファイルでなくても訳文のみでチェック可能
 
主なチェック機能:
・スタイル仕様の準拠
・用語集の用語に準拠
・表記の揺れ
オプションとして次の機能が使用可能(簡単なパターンを検出)
・誤字脱字の検出
・文法のチェック
 
その他の特長:
・カタカナ語は4000語くらいのエントリーがあるが、自分でカスタマイズ可能。
・簡易モードと高機能モードで使い分け(高機能モードの方が処理は高速)
・資産を一元的にアレンジできる。資産の再利用だけでなく、頻度の高い用語抽出
・チェックツール以外にも、ファイル変換や、特定パターンの文字列抽出などの応用
・複数のWordファイルに対してのチェック実行
・用語集に照らし合わせた対訳チェック
※チェック可能な項目に関する詳細は、ツールをダウンロードまたインストールし、オンラインヘルプ (http://www7b.biglobe.ne.jp/~taku3/TransQA_standard_style.html) を参照してください。
 
実際にどう使うのか?
1. 案件ごとプロジェクトの設定
2. 翻訳したファイルの読み込み
3. チェック項目の指定
4. チェックの実行
 
チェック対象
・パターン1. 訳文をベタ打ちしたWord文書(分野は特に設定せず)
・パターン2. Tradosを使って翻訳したWord文書
・パターン3. IT翻訳などのバイリンガルファイル(TTXファイルなど)
 
まとめ
3種類のツールいずれも、すべてのスタイルや用語などを実装すると誤検出が増えたり、過検出となったりするため、現実的に有効と考えられる項目の検出に絞っている。今回ご紹介したチェックツールを使い業務効率や品質の向上にぜひお役立ていただきたい。また、これらのツールができるのはエラーの抽出であり、エラーが出るからといってすべて修正すればよいとは限らず、修正が必要なエラーを見極めて手動で修正を行う必要がある。ツールによって特長が異なるため、用途に合わせてご活用いただきたい。
各スタイルチェックツールの詳細については以下を参照してください。
http://www.jtf.jp/jp/style_guide/stylechecktool.html
 

 

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