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「産業翻訳の国際標準規格」
2013/09/06
「産業翻訳の国際標準規格」
株式会社翻訳センター
河野弘毅(かわのひろき)
河野弘毅(かわのひろき)
皆さんはISOという組織をご存知でしょうか?ISO(国際標準化機構)は国境を超えた規格の標準化の推進を目的とする組織であり、1947年に設立、本部はスイスのジュネーブに置かれ、2013年8月現在で163ヶ国が加盟しています。この組織が担っている「規格の国際標準化」という活動は、現代社会が存続できるための前提条件として非常に重要です。一例として国際物流での事例を紹介します。
現在海上貿易額の6割を占めると言われる国際海上コンテナは「ISOによって外形寸法・内寸寸法・強度・コンテナの積み上げや固定に必要となる隅金具などが決められており、国際的な船やトレーラー等によるスムーズな複合一貫輸送に大いに貢献して」います(出典:『国土交通省国土技術政策総合研究所資料No.478』渡部他)。国際海上コンテナの勃興期であった1950年代当初は船会社ごとにサイズの異なるコンテナを使っていましたが、その状況を放置して「船社ごとにコンテナのサイズが異なると、船へのコンテナの積み付けや、荷役機械でサイズの違うコンテナの取扱いをしなければならない、スプレッダーと呼ばれる荷役時の補助具を複数準備しなければならないなど不都合が多く、輸送が非常に非効率となるおそれがあった」(出典同上)ため、まず米国の管理局が規格を定め、後に米国がISOに規格の統一を働きかけ、1960年代にISOの技術委員会TC104において順次ISO規格が承認されて、今日の標準規格が実現されました。
ひるがえって翻訳業界の現状を考えてみましょう。翻訳会社のホームページをみれば、優れた品質の翻訳を複数の言語・多様な分野にわたって提供しますと書いてあるのが普通です。翻訳を発注する側にはそれぞれに個別の事情があり、自分の需要にぴったり合った仕事をしてくれる翻訳会社ないし翻訳者をスムーズにみつけたいはずですが、ホームページに書かれている「自己PR」だけでは基準があいまいすぎて「自分の個別需要を満たしてくれるのかどうか」の判断がつきませんし、複数の翻訳会社の客観的な比較もできません。何らかの客観的な基準が欲しいと考えるのは当然です。
欧州ではこのような市場のニーズにこたえる形で、2006年に欧州標準化委員会(CEN)が翻訳業界の品質に関する「欧州規格」EN15038を定めました。英独仏を含む欧州のCEN加盟13ヶ国では、同規格はすでに各国の国内規格としても発行されています。そしてこのEN15038の実績と経験をベースに、現在ISOの技術委員会TC37/SC5において検討されている規格がISO17100です。TC37/SC5は、2012年に「Translation projects - General guidance」としてTS11669を制定済みであり、これをベースに2014年に「Requirements for translation services」を定めるISO17100を制定すべく議論を重ねています。
今月号では、すでに制定されているTS11669の解説記事をPDF版に掲載するとともに、ISO17100の制定状況と業界に与える動向を紹介するインタビュー記事をWeb版に掲載しました。この2本の記事だけでISO17100のすべてを紹介することはとてもできませんが、一人でも多くの方が、これらの規格が翻訳業界にもたらす可能性について考えるきっかけとなればさいわいです。
2013年9月